東京海上が副業推奨!その理由や背景は?

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「東京海上、全社員に副業推奨」というニュースが話題となっています。

 

―東京海上日動火災保険が今月から、全社員約1万7千人を対象に副業の推奨を始めたことが5日、分かった。異業種で経験を積むことで社員の能力を伸ばしたり、働き方を柔軟にして企業としての魅力を高めたりする狙いがある。損害保険最大手の東京海上が推奨に踏み切ったことで、副業活用の動きが一層加速しそうだ。
 東京海上はこれまでも副業を容認していたが、本社の人事部門の承認を必要とするなど条件が厳しく、活用する社員は年間数名にとどまっていた。今後は他社での勤務時間が基準以下であれば、支店や部署といった現場の裁量で許可できるようになる。

1/6 東京新聞 TOKYO WEBより)

 

東京海上は、業界最王手の損害保険会社です。

1879年、渋沢栄一らの提唱により日本で最初に設立された保険会社であり、1970年代より学生の就職したいランキングのトップクラスに入り続けている人気企業でもあります。

就職すれば“勝ち組み”とも言われる東京海上日動が、副業を積極的に推奨しなければいけない理由…その真意はどのようなものなのでしょうか?

 

―「何か経営状況の危機が迫っている?」

ネットでは、このような類のネガティブ声も挙がっているようですが、同社の社員は、コロナの影響によって、毎月の給料が下がったということはないようです。

ただし、近年は、毎年のように大規模自然災害が多発していますので、保険金の支払いが増大する機会も増えています。

また、AI・デジタルを活用した新しい世代の保険サービス提供への対応、リモートワークへの対応のためのシステム投資も増えています。

 

しかし、今回の「副業推奨」が発表された背景については、コロナ影響による今後の給料削減・甚大な経営的危機に備えるためのものではない…と言えるでしょう。

では、どのような理由があり、東京海上は副業を“推奨”するのでしょうか?

この記事では、その理由や背景について、かつて同グループ会社での勤務経験もあるライターの私が、独断と偏見で解説いたします!

東京海上が副業を推奨!その理由と背景とは?

結論から言うと、

東京海上が副業を推奨したい最も大きな理由の1つは、

若手社員の離職への歯止めをかけたい…という点です。

では、その背景とは、どのようなものなのでしょうか?

 

(1)「高い離職率」という課題

文系大学生の人気企業ランキングのトップクラスに位置している同社ですが、意外にも、東京海上は入社3年以内の離職率が30%を超えている(※)ようです。

つまり、学歴や経歴など優秀な若手たちが、比較的多くすぐに退職していってしまう…という意味です。

採用担当者も、この状況については危惧をしているようです。

(※東京海上グループHPより)

 

では、なぜ、人気企業なのに多くの人が退職してしまうのか?

東京海上は、それほどまでにひどい労働環境の会社なのでしょうか?

 

いえいえ、そんなことはありません。

コンプライアンスの厳しい保険会社ですので、世の中でいうひどいパワハラやセクハラはありませんし、仮にあった場合にでも、すぐに対処がなされる誇るべきクリーンな業界です。

また、当然、残業時間にも厳しく、繁忙期でもせいぜい1日3~4時間程度でしょう。

お給料はというと、30代の平均年収は1千万円を越えます。

 

優秀な若者たちが、すぐに退職してしまう…その理由は、別のところにあるようです。

 

(2)旧体質な業界・社風を憂う若手社員たち

ホワイト企業、超優良企業、安定性抜群で憧れであったはずの東京海上なのに、なぜ若手社員は退職していってしまうのでしょうか?

 

結論から言うと、“物足りない”、“もっと裁量ある仕事がしたい”、“もっと活躍したい”と感じている若手社員が多いからではないでしょうか。

というのも、保険会社は、まだまだ“旧体質”で“お役所体質”で、“年功序列”な文化が残る企業です。

 

良い表現をすれば、“トラディショナル”(歴史があり伝統的)な企業。

世間からの信頼・信用もある企業で、給料も高く安定性もある…それが大きなメリットでもあることには以前と変わりはありません。

 

しかし、働き方については、旧体質そのものです。

保険会社の正社員は、3年前後で組織異動を命じられることも珍しくありません。

1,2年前、世間からやや批判も受けた「全国転勤制度」も、バッチリ残っている業界です。

 

ひと昔前までは、これで良かったのかもしれません。

「俺たちの頃は、もっと大変だった」
「石の上にも3年」
「なぜ、うちの会社がそんなことをやらなきぃけないんだ」

…と、東京海上の若者たちは、会社の恩恵を受け育ってきたおじさん社員たちから多くのことを諭されてきたことでしょう。

 

しかし、トップクラスの大学を出て、トップクラスの人気企業に就職できるほど優秀な彼らにとって、このような環境は幸せと言えるでしょうか?

いつの間にか時代は、デジタル・AIの時代へ移行。

ウソではなく、いまだに「紙」や「FAX」が業務における基本となり、そこから脱却できていないのが保険会社・保険業界です。

SNS・情報発信の時代に、保険会社は社員に対してSNSも禁止しています。

当然、保険会社の上司たちがテクノロジーに詳しい訳がないですし、積極的な若手社員たちの考えや意見に対して柔軟ではないこともあるのでしょう。

このような大企業になると、なんだかんだ社内政治やセクショナリズムなども強く、立場のある管理職たちは、自ずとこれまでの旧体質・旧体制を守っていこうとするものです。

 

さて…

こんな令和の保険業界にいる若手の保険会社員ですが、一方で、大学時代に過ごした同世代の仲間たちはどうしているでしょうか?

また、世界の動きはどうでしょうか?

優秀な東京海上の若者たちだからこそ、会社の現状に憂い、悲観的になるのも無理はありません。

 

(3)会社組織を出て、未来を切り開こうとしている若者たち

当サイトの管理人である私は、昨年、東京海上グループの若手有志団体の「Tib」(ティブ)の方たちに出逢い、東京海上グループの若者のリアルを目の当たりにしました。

Tibは、会社組織という枠組みに囚われず、また会社のリソースだけに頼らず、自分たちの頭で考えラボ的なビジネスを展開する取組を行っています。

 

そして、そんな彼らにインタビューを行った際、最も強く印象的に残った言葉は「危機感」というキーワードでした。

将来の安定が約束された企業にいなかがら、彼らは、強い「危機感」を持ちながら、それを「行動」に移していたのです。

その「危機」こそ、まさに今回のコロナによる大きなゲームチェンジであり、あらためて東京海上の若者たちのビジネスマンとしての優秀さを感じずにはいられません。

(参考記事…いえ、必読です!)

「東京海上グループ若手社員の有志団体「Tib(ティブ)」の発起人&広報担当者にインタビュー!」

「東京海上グループ若手社員の有志団体「Tib(ティブ)」のイベントに潜入!」

 

(4)トリガーは、コロナによりもたらされたパラダイムシフト

東京海上が、副業解禁に踏み出す決め手となったのは、やはり、コロナによりもたらされたパラダイムシフトでしょう。

東京海上の社員は、コロナの影響によって毎月の給料が下がったということはない…と前述しました。

しかし、東京海上をはじめとする保険会社も、コロナによって大きなパラダイムシフトがもたらされました。

 

例えば、コロナにより緊急事態宣言が出された4月、損害保険業界での勝ち組みは、東京海上ではなく、チューリッヒ保険会社でした。

チューリッヒは、緊急時にリモートで業務を行えるような準備を10年前から行い、緊急事態宣言後は、すぐに在宅勤務率95%という驚異の対応を行い話題となりました。

(参考記事:「驚異の在宅勤務率95% コールセンターを“丸ごと在宅化”、チューリッヒ保険が移行できた理由」

一方、東京海上をはじめとする他の保険会社のコールセンターはというと、「在宅」で出来る業務はないとため、出社人数を減らし、営業時間を減らす(=サービスを縮小)という対応のみ。

会社の規模はさてき、組織における「危機管理」「柔軟性」「機動力」という点においては、チューリッヒ保険の一人勝ちだったと言えるでしょう。

 

そして、現在、保険会社は、営業などの一部の職種を除き、これまであまり普及していなかったリモートワーク(在宅)も、コロナをきっかけに一気に普及しつつあります。

また、保険営業は対面で行うことが基本でしたが、保険相談だけでなく、契約においても、リモートを活用する方向にシフトしつつあります。

このような例は、あくまで表面的にニュースになっている一部の出来事ですが、保険会社は、彼らがこれまで守ってきた「旧体質」「旧体制」を壊さなくてはいけなかったのです。

 

この時、保険会社は、これまで行ってきた「働き方改革」とは名ばかりのもので、自分たちの組織のスピード感のなさ、世間から遅れをとっていたデジタルを活用したユーザビリティの重要性などを考えてこなかった認識の甘さなどを一気に痛感したことでしょう。

このような反省もあり、ウィズコロナ、アフターコロナの時代も、働き方変革を進めていく上で、「副業」というのはまさに避けては通れない潮流です。

その課題に真正面から向き合った結果が、今回の決断をもたらした要因の1つと言えることは間違いないでしょう。

 

(5)副業の「解禁」ではなく「推奨」の理由

ところで、今回のニュースでは、副業の「解禁」ではなく「推奨」という言葉が使われていました。

なぜ、「推奨」という言葉なのかというと、それが、“学び・スキルアップの機会”という位置づけだからです。

 

というのも、現代において、副業を行おうとすれば、インターネットの活用は避けて通れません。

副業を通して得られるであろうデジタルスキル・ノウハウ・マーケット感覚によってデジタルネイティブな若者たちが会社に増えれば、会社にとっては大きな強みとなります。

また、会社の若者にとっては、対価として、副収入はもちろんのこと、保険会社にいるだけでは決して体験できなかった仕事、出会えなかった人脈を得ることもできます。

 

一方、副業を解禁することで、コンプライアンスへの影響はないのかという懸念もあるかもしれません。

しかし、この記事が真実であるならば…という仮定ですが、東京海上にはそこまで大きなリスクはないと私は思います。

今回は、副業は「勝手にやっていい」というものではなく、小さな組織の単位で承認が可能になった…というものです。

あくまで本業が優先なので、本業を疎かにしている社員は、自ら副業の申告しずらいという抑止力も働くでしょう。

 

また、そもそも、安定を求めている社員は「副業OK」となっても何もしないでしょうし、

いざ、副業をしよう!と決心しても、残念ながら、自分は何も特別なスキルがない…ということに気づかされる人もいるでしょう。

つまり、東京海上の「副業推奨」には、組織のために新たな時代を切り開いていく若者たちのための制度…となる大きな期待が込められているのです。

 

ライター

●名前:うっちー (@uchi3333)
●東京都在住30代。
●経歴:レコード会社から国内保険会社へ転職し、生命保険営業・保険代理店支援・損害保険サービス等を担当。現在も、現役で保険業界で働くwebライターとして活動しています。