アフターコロナの保険業界、どうなる?

 

東京都の1日の感染者数が2桁となり、コロナ収束への兆しが見え始めた5月初旬。

まもなく自粛ムードが徐々に薄れてゆき、“また忙しい日常生活が戻ってくるのか”…と思っているサラリーマンの方も多いかもしれません。

でも、もし、明日、自粛ムードが明けて日常の業務に戻ったとき、目の前に広がっている世界が、これまで私たちが知っている保険業界の価値観では通用しない“新たな保険業界”に変わっていたとしたら、あなたはどうしますか?

アフターコロナの世界は、非接触・オンライン・リモートがキーワードとされていますが、私たちが働くこの保険業界も例外ではありません。

今回は保険業界で働く当記事ライターが、“アフターコロナの保険業界”について実体験も踏まえて考えていきたいと思います。

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アフターコロナの保険業界、どうなる?

 

アフターコロナの保険業界は、簡潔に言うと、ここ数年、保険業界が本腰を入れて取り組みはじめていたテクノロジー戦略・デジタル戦略・AI戦略が一気に推し進められます。

そんなことは誰も容易に想像できることかもしれません。

しかし、その変化がもたらすものは、便利・効率化・最適化…といったメリットだけでは決してありません。

保険業界が一気に推し進めるパラダイムシフトは、現場で働く多くの人たちに大きな格差を生じさせます。

1.正規雇用と非正規雇用の格差が広がる

保険業界、とくに保険会社の現場では、派遣社員たちが多く働いています。

オフィスで働く大半が派遣社員という組織などもあるのではないでしょうか。

例えば、損害サービスの支払担当者、コールセンターの受付員など、間違いなく最前線を支えてきた方たちが、派遣社員の彼ら・彼女らであることに違いはありません。

 

しかし、アフターコロナの保険業界では、この格差が拡がります。

正社員と派遣社員とでは、当然ながら業務内容・給与体系・勤務体系・福利厚生など様々な点において違いがありますが、加速するテクノロジー化は、派遣社員にとって嬉しい変革はあまり期待できません。

“神対応”と報道されたチューリッヒ保険コールセンター、成功のカギ


(写真はイメージです)

 

例えば、今回のコロナ禍における逆境の中、ひときわ評価されたのが損保のチューリッヒ保険。

チューリッヒ保険では、政府の緊急事態宣言発令を受け、4月8日から全国の拠点で在宅勤務へ移行し、なんと在宅勤務率95%を実現。

個人情報を常に扱うコールセンターでも、500名の全面在宅化を実現させたことで、保険業界やコールセンター機能を持つ様々な業界からも“神危機対応”と称賛されました。

その対応は以下の通り。

「チューリッヒは今回、在宅ワーク用の機器としてオペレーターに通話用ヘッドセット、パソコン、Wi-Fiルーター、スマートフォンの4点を貸与した。これらのほかに、業務に適した机やイスがないといった人には、必要な物品を購入する目的の金銭補助(金額は購入品目にかかわらず一律同額)をしている。

オペレーターはスマホで保険契約者などからの電話を受けるが、発信元の電話番号はスマホには表示されない仕組みだ。また傍受されないよう、通話内容には暗号化が施されている。オペレーターは契約者などとのやり取りをパソコンから社内システムに記録するが、仮想デスクトップのソフトウエアを使うことで、オペレーター側のパソコンには情報が一切保存できないようになっている。」

(引用元:ダイアモンドオンライン「コールセンター500人の全面在宅化を実現、チューリッヒ保険の神危機対応」

 

BCP対策として、テクノロジーをフル活用した準備を行ってきたのがチューリッヒ保険な訳ですが、では、これはテクノロジーさえ導入すれば、どのような保険会社・コールセンターでもできたのかと言えば決してそういう訳ではありません。

参照記事にも記載のとおり、他のコールセンターとチューリッヒ保険のコールセンターとの大きな違いとして、“大半の従業員が、直接雇用”という点を挙げています。チューリッヒ保険では、派遣社員はごくわずか…だというのです。

もし派遣社員が大半を占める組織で、同様にテクノロジーを活用した在宅ワークを実施しようとすれば、これには多くの乗り越えるべき課題が重くのしかかってしまいます。

 

容易に想像できるのは、まずは「セキュリティ」の問題。

派遣社員が個人情報を流出させてしまった際のリスクに備えるほどの対策を充分に実施することができるかどうかが大きな課題です。

当然ながら、企業としては直接雇用の従業員に対しての教育については、時間をかけ、金銭的な投資を行うこともできますが、流動的な派遣社員に対しては難しい…と考える組織もあるのではないでしょうか。

 

そしてもう1つが「スキル・権限」の問題。

保険商品知識や事故解決に向けた対応は、日頃から充分に教育を受けている正社員であっても難しいものです。

派遣社員には、社員への事前相談・チェックを必須のフローとしている保険会社が大半であることを考えると、在宅ワークで同じ仕組みを設けることは難しいのはないでしょうか。

 

その結果、アフターコロナの保険業界では、直接雇用の社員には在宅でも対応できるような環境を整えつつも、一方で派遣社員への対応は遅れ、労働環境面・システム環境での差も拡がることが予測されます。

派遣社員の比率が多い組織ほど、その対応・対策は悩ましいものになるでしょう。

そもそも保険会社の派遣社員の採用については、コロナ禍以前から厳しい状況が続いていることを考えると、保険会社はますます派遣社員に頼らないテクノロジー・AIを活用した業務フローの構築にエネルギーを注ぐことになるでしょう。

10年以上もの長い時間をかけて体制を構築してきたチューリッヒ保険は、やはり素晴らしいと言えるでしょう。

 

2.テクノロジーを扱える人材と扱えない人材の格差が拡がる

 

保険会社では、コロナ自粛を受けての在宅勤務・オンラインミーティングの推進をきっかけに、Zoom・LINE WORKS・Teamsといったオンラインツールを積極的に活用しはじめています。

もともと外出の多い営業担当、広報企画担当、募集人等であればスムーズに活用することができますが、そうでない人たちも多く出てくるでしょう。

それでも、これまでは、
「私、パソコン苦手なの…」
「おい、若いの!このシステムの設定作業、よろしく!」
…このようなおじさん・おばさんたちも、なんとか生き残ることができるオフィス環境でした。

 

しかし、すでに保険業界ではテクノロジーを活用による業務品質向上・人員削減を進めていましたので、コロナをきっかけに非接触・オンライン・リモートが超加速していくことで「テクノロジーが使えること」「テクノロジー活用への理解を示すこと」は、もはや最低限の必須スキルであり、マナーとなります。

 

これは保険業界に限った話ではありませんが、キャッチアップできない人、キャッチアップしようという意識のない人は淘汰される世界になります。

例えば、保険会社が行っているシニア人材の雇用は積極的には進まず、また、高齢化が進む中小規模代理店へのフォローも手薄になり、保険業界の規模縮小もますます加速していくでしょう。

 

ちなみに、過去記事「インシュアテック競争激化!保険業界、あと5年でなくなる仕事」では、テクノロジーによってなくなる仕事について紹介しています。

なくなる仕事の一例

・なくなる仕事その①:保険外交員
・なくなる仕事その②:決済管理職
・なくなる仕事その③:カスタマーセンターオペレーター
・なくなる仕事その④:事故受付センタ―
・なくなる仕事その⑤:事務員

 

3.募集人の情報量・品質・成績の格差が広がる

 

比較的大きな規模を持つ一部の代理店では“オンライン面談”がはじまっています。

すでにスマホでのweb完結型の契約システムも様々提供されている昨今ですので、当たり前だった“対面式の募集”も、アフターコロナの世界では、顧客にとっては大きなデメリット。

いよいよ“この人に会いたい”、“この人から加入したい”と思われる募集人しか生き残ることができない世界に変わっていきます。

 

ちなみに、私がSNSを通じて加入している保険募集人のオンラインコミュニティ“保募ツイ連”では、SNSを通じてリアルタイムで募集人同士の情報・意見交換を行うことが可能です。

自粛期間中も淡々と募集活動を行う方、営業は自粛し保全活動を行う方、事故対応を行う方、完全に休暇を満喫する方…募集人の方も様々ですが、SNSを活用することで“横のつながり”による人脈構築を行い、そこから営業活動へのヒントを得ることができるのです。

この「保募ツイ連」はすでに数百名の会員規模を持つコミュニティとなり、アフターコロナの保険業界では、募集人においてもSNS・webツールをはじめとするテクノロジー活用はやはり必須と言える動きを感じざるを得ません。

アフターコロナの保険業界…広がる格差、そして業界規模の縮小

このようにアフターコロナの保険業界は、テクノロジーと相性の悪いヒト・モノ・仕組は淘汰されるか、急速な変化が求められる世界へと一気に突入していきます。

 

そもそも保険会社では、テクノロジー戦略による人員削減、リストラなども進めていましたので、そのスピードが一気に早まることで、それに対応できない人・組織が増えることに間違いはありません。

その結果もたらされるあらゆる格差によって、保険業界から去ってゆく人材も増えていますし、業界内の一部の組織の縮小なども起こります。

さらなる人員整理なども起こるでしょう。

 

…という感じで、アフターコロナの保険業界は、テクノロジー化の波に乗れる環境か、もしくはその環境を自らの手で創り出していける人材でなければ生き残りが厳しい世界へと変化していくのではないでしょうか。

アフターコロナの保険業界…圧倒的なサービス品質向上へのパラダイムシフト

急速なテクノロジー化は、大きな格差をもたらす一方で、圧倒的なサービス品質の向上をもたらしてくれる…そんな明るい希望の兆しもあります。

 

このコロナによって話題となった“ハンコ”は、その一例です。

保険業界は、日本の悪しきハンコ文化のまさに象徴…と言えなくもありません。

旧体質が依然残る保険会社においては、ハンコを必要とする業務フローはまだまだたくさんあり、それが一気に“ハンコ不要”“オンライン申請・承認システム”が構築されていくことで、圧倒的な生産性向上が図られるのです。

 

ちなみに私が所属していた保険業界のいち組織では、ただの“名刺”の申請ですら、所属組織の上長2名のハンコをもらい、その書類を人事総務に提出する…というフロー。

(グチも含まれますが)一方、私がかつて働いていたレコード会社では、10年以上も前の当時から名刺申請は、システムでちゃちゃとボタンを押せばすぐに完了してしまうシステムでした。

なんなら保険会社では、よく使用する日付を押せるタイプの印鑑“通称:デート印”を、未だに会社からのプレゼントとして渡されることだってあります(異動のときとか)。

 

保険業界にとって、古い時代のお役所と同様、ハンコは威厳を示すための象徴だったのかもしれません。

ハンコ文化消失への動きなどは、保険業界におけるパラダイムシフトをもたらし、そして、圧倒的なサービス品質向上をもたらしてくれるに違いありません。

アフターコロナの保険業界は、生き残りをかけた戦いのはじまり

 

さて、今回はアフターコロナの保険業界について、その予測をしてみました。

圧倒的なサービス品質向上も期待される一方、もともとは“旧体質”“変化を嫌う気質”だった保険業界。

逆に、この変化を受け容れるだけの器を持っている会社・組織・人…が、どれほどいるのかは、とても気になるところです。

保険業界で働く自らへの自戒を込めて言えば、アフターコロナの保険業界は、柔軟に変化し続けていく人だけが生き残ることができる世界だと考えています。

日常に戻ったときに私たちの目の前に広がっている光景は、これまでの見慣れた景色のようであっても、実は、すでに新たな世界の景色…かもしれません。

 

●参考書籍:

これまでの保険業界のデジタル化について学ぶならこの1冊


「FinTechは保険業界の「何」を変えるのか?」をAmazonで購入する

2017年発売。IT分野に詳しくない方でも、これまで保険業界が抱えてきた課題や、今後ITによって保険業界がどのように変わっていくのかを簡単に把握できる1冊です。その内容は、生保業界・損保業界に限らず、また会社経営側や保険販売現場側の両方の視点でも読むことができるものとなっています。保険業界とテクノロジーについて、イチから学びたいという方はこちらの書籍がおすすめです。

今後のデジタル社会・デジタルについて学ぶならこの1冊

「シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成」をAmazonで購入する

2020年のベストセラー書籍です。テクノロジーと保険をテーマとした書籍は、そこまで多く出版されていません。本書も、保険について一切触れられていませんが、今後、社会・教育現場・ビジネス現場において、どのような人材が求められるかが具体的に述べられています。

本書では、組織において新しい考え方・新しいテクノロジー等の導入を拒む中間管理職・管理職たちを“じゃまオジ”・“じゃまオバ”と称して紹介しています。これは、邪魔してくるおっさん・おばさんの略です。実際、保険会社組織にもこのような“じゃまオジ”・“じゃまオバ”はたくさんいますよね。そういった中間管理職に自分はなっていないだろうか?と自問自答するためにも、ぜひ読むべき著書です。

 

●記事担当:うっちー(保募ツイ連)

レコード会社でオーディション・イベント企画等を担当。その後、保険会社に転職し、保険営業、保険代理店サポート、保険支払い部門等を担当。現在も保険業界で働きながら、ライターとして活動中。